非周期的タイル張りのみ可能なタイル「hat」で形成したクラスタが備えるフィボナッチ数列と2回回転対称の性質

はじめに

以下の話は,「非周期的タイル張りのみ可能なタイルの話」と「非周期的タイル張りのみ可能なタイル「hat」を使った周期性を持つ敷き詰め模様のベルト」を読んでいることを前提にしています.

無周期的モノタイル「hat」を示した論文「An aperiodic monotile https://arxiv.org/abs/2303.10798v1 」のFigure 2.11のH7やH8で形成したクラスタC6(n)やC7(n)には,C6(n−1)とC7(n−1)が平行移動して並ぶ構造があります.下図は,その構造の箇所に赤線を引いています.

 

Worm of cluster C7(2) formed by H7 and H8

 

ペンローズ・タイリングに習って,現在この赤線のようなタイルが並んでいる箇所は「Worm」と呼ばれたりしています.以下では,このWormに関係する性質を紹介します.なお,ここで紹介する性質は,クラスタC6(n)やC7(n)の赤線の下にあるWormのみに注目したものです.

 

H7とH8で形成したクラスタC7(n)内の赤線の下にあるWormとフィボナッチ数列

クラスタC7(n) の赤線の下にあるWormのH7とH8の並びと数に注目すると,フィボナッチ数列の性質を見つけることができます.

例えば,そのWormをフィボナッチ数列に関係する2種類の区間で区切ると以下の図のようになります.

 

Worm of cluster C7(6) formed by H7 and H8

 

詳しい図は下記のリンク先で見てください.

https://drive.google.com/file/d/1tl7U2kg_31rbcKXpw4SrUF8uWgWJki0Y/view?usp=share_link

リンク先の図の左下は,クラスタC7(4)の赤線の下にあるWormからH7とH8の記号を取り出すステップです.リンク先の図の上部は,クラスタC7(6)の赤線の下にあるWormをフィボナッチ数列に関係する2種類の区間で区切った図です.

さらに,その赤線の下にあるWormをフィボナッチ数列に関係する3種類の区間で区切ると以下のようになります.

 

Worm of cluster C7(6) formed by H7 and H8 Worm of cluster C7(6) formed by H7 and H8

 

詳しい図は下記のリンク先で見てください.

https://drive.google.com/file/d/1SPSF0UiCovaUeQLc1TcL__7Q6UuIV6EW/view?usp=share_link

この3種類(黄色、緑色、紫色)の区間は,リンク先図の右下に書いているようにH7とH8の並びが線対称になっています.

 

H7とH8で形成したクラスタC7(n)内の赤線の下にあるWormの2回回転対称の性質

論文「An aperiodic monotile」の著者の一人のKaplan博士はTweetで

とhatタイルを組み合わせて2回回転対称な境界を持つ無限に長い列が作れると示していました.また論文公開の直後に,専門家も含むタイリング愛好家のメーリングリスト内での議論で,彼は当時その長い列を「Chain」と呼んで,それがhatタイルで形成したクラスタやタイリングの中に現れるようだとの観測を述べていました.

上記のような性質をC7(3)の赤線の下にあるWormで確認したのが下図です.大きな図はここをクリックして見てください.180度回転したタイルの列が重なるのを確認しました.

 

Worm in cluster formed by H7 and H8

 

先ほど,赤線の下にあるWormのH7とH8の数列を区切った黄色と緑色と紫色の3種類の区間が線対称になっていると紹介しました.つまり,これらの区切りは2回回転対称の構造でもあると見なせます.

これを,C7(3) の赤線の下にあるWormで確認すると,H7とH8の列も180度回転できる性質があることに気付きました(これらに関係することは,杉本と荒木義明さんとで2023年5月17日にタイリング愛好家のメーリングリストで報告しました).この性質を示した図が下図です.大きな図はここをクリックして見てください.

 

Worm in cluster formed by H7 and H8

 

赤線の下にあるWormに関して,上記で紹介したフィボナッチ数列での分割や,タイルの列やH7とH8の列を180度回転で入れ替えられる性質が,nがもっと大きい場合のC6(n)やC7(n),さらにはC6(infinity)やC7(infinity)の場合のタイリングでも成り立つかの証明は現段階ではありません.ですが,そのような性質が成り立っているのではないかと推測しています.

Remark:Wormと呼ばれているhatタイルの列は,hatタイルで形成したタイリングやクラスタ内のいろいろな箇所に存在します.上記で紹介したクラスタC6(n)やC7(n)の赤線の下にあるWormが持つようにみえるフィボナッチ数列での分割や180度回転で入れ替えられる性質は,hat タイルのタイリングやクラスタ内のすべてのWormで成り立つとは限りません.むしろ,それら性質がそのまま成り立たないWormのほうが多いと思われます.

 

H7とH8で形成したクラスタC6(4)内の赤線の下にあるWormを使った図

クラスタC6(4)の赤線の下にあるWormでも成り立つことを確認してみました.

 

Worm in cluster formed by H7 and H8

 

上図の大きな図はここをクリックして見てください.下図は,上記の図の黄色い枠の部分内のWormを変化させたgifアニメです.赤線の下にあるWormのhatタイルの列で入れ替えてできるhatタイルの敷き詰め模様と赤線の下にあるWormのH7とH8の列で入れ替えてできるhatタイルの敷き詰め模様は同じです.

 

Worm in cluster C6(4) formed by H7 and H8

 

つまり,タイルの列を180度回転して入れ替えたとき,それはH7とH8の列を180度回転して入れ替えた場合と同じになります.したがって,入れ替えでできる上図のWorm周辺のhatタイルの敷き詰め模様は以下の2種類です.

 

Worm in cluster formed by H7 and H8

 

Worm in cluster formed by H7 and H8

 

補足

赤線の下にあるWormを軸にして,下図のように下半分をコピーして180度回転したものを上に持ってきます.

 

 

そのコピーは下図のようにWormの軸の上側にピッタリと重ねられたりもします. これらの図はクリックすると大きな図が見られます.

 

 

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