非周期的タイル張りのみ可能なタイル「hat」を使った周期性を持つ敷き詰め模様のベルト

はじめに

「非周期的タイル張り」や「無周期的モノタイル」などの用語に関しては,「非周期的タイル張りのみ可能なタイルの話」を参照してください(以下を読む前に,使われているそれら用語のここでの定義を確認した方が理解しやすくなると思います).

無周期的モノタイル「hat」を示した論文「An aperiodic monotile https://arxiv.org/abs/2303.10798v1 」のFigure 2.11のH7やH8を元につくったクラスタを利用すると,「周期性を持つ敷き詰め模様のベルトが作れて,そのベルトの幅をいくらでも大きくできる」と推測できました(2023年3月27日頃に気付きました).

一部の図はここにも載せていますが,それだと解像度が低くて確認しにくいと思います.そこで解像度が高めの図を,下記のGoogleドライブにアップしてあります.
https://drive.google.com/drive/folders/1yobX7J03EnrCAironLBiObdCgwMKrWJ7?usp=sharing

 

非周期的タイル張りの置換方法とクラスタH7とH8

まず,論文「An aperiodic monotile https://arxiv.org/abs/2303.10798 」のFigure 2.11の置換方法(高度に秩序化されたタイル張りを構築する方法)に従って作った無周期的モノタイル「hat」を用いた敷き詰め模様のクラスタが,「aperiodic_monotile_hat_Fig2.11_substitution.png」に該当します.このファイルの

図の1段目:

  • H7とH8.

図の2段目:

  • 1個のH7と5個のH8を組み合わしてクラスタを形成し,C6(1)とする.
  • 1個のH7と6個のH8を組み合わしてクラスタを形成し,C7(1)とする.

図の3段目:

  • 1個のC6(1)と5個のC7(1)を組み合わしてクラスタを形成し,C6(2)とする.
  • 1個のC6(1)と6個のC7(1)を組み合わしてクラスタを形成し,C7(2)とする.

図の4段目:

  • 1個のC6(2)と5個のC7(2)を組み合わしてクラスタを形成し,C6(3)とする.
  • 1個のC6(2)と6個のC7(2)を組み合わしてクラスタを形成し,C7(3)とする.

となっています.

Maurizio Paolini氏が上記の置換のアニメーションを作っています.

この置換を無限に繰り返すことで無周期的モノタイル「hat」を用いた非周期的タイル張りが得られます

 

Cluster formed by H7 and H8

 

無周期的モノタイルで作ったベルト

ここからは,ベルトの話です.

まずは,「aperiodic_monotile_hat_D4(1)_BeltD4(1).png」に関して,以下のことを確認しました.

  • 1個のC7(1)と3個のC6(1)を組み合わしてクラスタを形成し,D4(1)とする.
  • D4(1)は横方向に重なりや隙間なく繰り返して配置ができる.
  • D4(1)の繰り返しで形成したベルトを,BeltD4(1)とする.このベルトは無限の長さが許される.
  • BeltD4(1)は縦方向に並べると,(2個の凸五角形分の)重なりが必ずできる(赤丸内を参照).
  • したがって,D4(1)は並進ユニット(並進のみで周期タイリングを生成するユニット)ではない .

 

Cluster formed by H7 and H8

 

次に,「aperiodic_monotile_hat_D4(2)_BeltD4(2).png」に関して,以下のことを確認しました.

  • 1個のC7(2)と3個のC6(2)を組み合わしてクラスタを形成し,D4(2)とする.
  • D4(2)は横方向に重なりや隙間なく繰り返して配置ができる.
  • D4(2)の繰り返しで形成したベルトを,BeltD4(2)とする.このベルトは無限の長さが許される.
  • BeltD4(2)は縦方向に並べると,(1個のH8と2個の凸五角形分の)重なりが必ずできる(赤丸内を参照).
  • したがって,D4(2)は並進ユニットではない.

 

Cluster formed by H7 and H8

 

さらに「aperiodic_monotile_hat_D4(3)_BeltD4(3).png」関して,以下のことを確認しました.

  • 1個のC7(3)と3個のC6(3)を組み合わしてクラスタを形成し,D4(3)とする.
  • D4(3)は横方向に重なりや隙間なく繰り返して配置ができる.
  • D4(3)の繰り返しで形成したベルトを,BeltD4(3)とする.このベルトは無限の長さが許される.
  • BeltD4(3)は縦方向に並べると,(1個のC7(1)と1個のH8と2個の凸五角形分の)重なりが必ずできる(赤丸内を参照).
  • したがって,D4(3)は並進ユニットではない.

 

そして「aperiodic_monotile_hat_D4(4)_BeltD4(4).png」関して,以下のことを確認した.

  • 1個のC7(4)と3個のC6(4)を組み合わしてクラスタを形成し,D4(4)とする.
  • D4(4)は横方向に重なりや隙間なく繰り返して配置ができる.
  • D4(4)の繰り返しで形成したベルトを,BeltD4(4)とする.このベルトは無限の長さが許される.
  • BeltD4(4)は縦方向に並べると,(1個のC7(2),1個のC7(1),1個のH8と2個の凸五角形分の)重なりが必ずできる(赤丸内を参照).
  • したがって,D4(4)は並進ユニットではない.

 

ここでnを整数とします.以上から,nが5以上でも,以下のことが成り立つのではと推測しました.

  • 1個のC7(n)と3個のC6(n)を組み合わしてクラスタを形成し,D4(n)とする.
  • D4(n)は横方向に重なりや隙間なく繰り返して配置ができる.
  • D4(n)の繰り返しで形成したベルトを,BeltD4(n)とする.このベルトは無限の長さが許される.
  • BeltD4(n)は縦方向に並べると,(1個のC7(n−2),1個のC7(n−3),・・・,1個のC7(1),1個のH8と2個の凸五角形分の)重なりが必ずできる.
  • したがって,D4(n)は並進ユニットではない.

 

nを無限大とするBeltD4(n),すなわちBeltD4(infinity)はタイル張りとみなせます(もちろんこのベルトが本当にできるとは示していないので,できるとした仮定の話となりますが).そのとき,BeltD4(infinity)は周期性を持たないタイル張り,つまり無周期的モノタイル「hat」を用いた非周期的タイル張りとなります.

無周期的モノタイル「hat」でBeltD4(n)のような周期性をもつ敷き詰め模様を備えたベルトを形成しても,「ベルトが太くなると繰り返されるまでの距離も比例して長くなり,これを無限大まで続けると確かに平面がタイル張りになるが,ベルトに沿った繰り返し距離も無限大になり,繰り返し距離がないのと同じことになる」と考えます(論文の著者の一人Kaplan博士と私はこの考えに同意しました).

したがって,無周期的モノタイル「hat」で形成した同様のベルトが無限でタイル張りと見なせる場合,そのタイル張りは非周期的です

 

4月に入り,上記のようなベルトはC6(n)でも作れることにも気付きました.つまり,

「aperiodic_monotile_hat_BeltC6(1)_200px.png」を参照:

  • C6(1)は横方向に重なりや隙間なく繰り返して配置ができる.
  • C6 (1)の繰り返しで形成したベルトを,BeltC6(1)とする.このベルトは無限の長さが許される.
  • BeltC6(1)は縦方向に並べると,(2個の凸五角形分の)重なりが必ずできる(赤丸内を参照).

 

Cluster formed by H7 and H8

 

「aperiodic_monotile_hat_BeltC6(2)_200px.png」を参照:

  • C6(2)は横方向に重なりや隙間なく繰り返して配置ができる.
  • C6(2)の繰り返しで形成したベルトを,BeltC6(2)とする.このベルトは無限の長さが許される.
  • BeltC6(2)は縦方向に並べると,(1個のH8と2個の凸五角形分の)重なりが必ずできる(赤丸内を参照).

 

Cluster formed by H7 and H8

 

以上から,nが3以上でも,以下のことが成り立つのではと推測しました.

  • C6(n)は横方向に重なりや隙間なく繰り返して配置ができる.
  • C6(n)の繰り返しで形成したベルトを,BeltC6(n)とする.このベルトは無限の長さが許される.
  • BeltC6(n)は縦方向に並べると,(1個のC7(n−2),1個のC7(n−3),・・・,1個のC7(1),1個のH8と2個の凸五角形分の)重なりが必ずできる .

このBeltC6(infinity)はタイリングとみなせ,BeltC6(infinity)は無周期的モノタイル「hat」を用いた非周期的タイリングです

そもそもC6(infinity)が非周期的タイリングですから,BeltC6(infinity)が非周期的タイリングでないとおかしくなります.これからも,「ベルトに沿った繰り返し距離も無限大になり,繰り返し距離がないのと同じことになる」ということがわかります.

無周期的モノタイル「hat」は上記のような有限の大きさの周期性を持つ敷き詰め模様のベルトがいろいろできるようです.著者達はこれらを「slab」と呼んでいるようです.

 

クラスタC6(n)とC7(n)に関しては,「非周期的タイル張りのみ可能なタイル「hat」で形成したクラスタが備えるフィボナッチ数列と2回回転対称の性質」というものも書いています

 

 

補足説明

ここでは,「周期性を持つ敷き詰め模様」は「周期性を持つタイル張り」と似た意味合いで使っています(最初に書くべきことですが,話の流れなどで難しかったので後に回しました).

非周期的タイル張りのみ可能なタイルの話」とここでは,「タイル張り」はタイルで平面を隙間や重なりなく被覆したもの(を指すようにかなり厳密に話を進めているつもり)で,無限平面を覆う(覆える)ものとしました.したがって,上記で紹介したnが有限の値の場合のBeltD4(n)のようなベルトの内部構造はタイル張りではありません.(話の流れなどで,「タイル張りする」のようにタイルを貼る行為として使うのは,ほぼ誤解も与えず問題ないとも感じますが,それも避けたつもりです).そこで,上記のようなベルトの内部構造を,「タイル張り(タイリング)」という言葉をさけて,「敷き詰め模様」と呼ぶことにしました.ここで,タイル張りを「敷き詰め」を使って表すなら,「タイルを無限に敷き詰められた(敷き詰められる)もの」となるかと思います.

したがって,それらの言葉を用いて敷き詰め模様のベルトの性質を表すと,
「横方向にD4(n)が繰り返して出現するBeltD4(n)の敷き詰め模様は周期性を持つ.一方で,縦方向は周期性がない敷き詰め模様である」
となると思います.

 

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